この記事は生命保険文化センターと生命保険協会の公表資料をもとにまとめています。制度の名前や対象となる範囲は保険会社によって違うので、ご自身の契約については保険会社にご確認ください。

親が入院したのですが、保険に入っているかどうかも分かりません。

よくあるご相談です。元気なうちに決めておける手続きが3つあります。
- 親の保険の内容を知らない人
- 親の物忘れが気になってきた人
- 自分の保険も家族に任せたい人
- 親が入院して慌てている人
保険は、本人が手続きすることを前提に作られています。
判断する力が落ちてからでは、家族でもできることが限られます。だからこそ、元気なうちの準備が効いてきます。
私は保険会社に約7年勤め、AFP(ファイナンシャルプランナー)として相談を受けてきました。順番にお伝えします。
認知症になると何が困るのか

何が起きるのかを知らないと、準備の必要性も伝わりません。実際にどこで行き詰まるのかを先に見ておきましょう。思っているより広い範囲で手が止まります。
請求できるのは本人だけ
入院給付金などを受け取る人は、多くの場合は被保険者本人です。
つまり、請求の手続きをするのも本人になります。家族だからという理由だけでは、代わりに請求することができません。
親が入院して一番お金が要るときに、手続きが止まってしまうのです。
契約の内容も教えてもらえない
電話で聞けばいい、とはいきません。
個人情報なので、家族というだけでは契約内容を答えてもらえません。どんな保障が付いているかも分からない状態になります。
証券が見つからなければ、入っているかどうかすら分かりません。
解約も住所変更もできない
困るのは請求だけではありません。
保険料の払い込みをやめたい、施設に移ったので住所を変えたい。こうした手続きも、契約者本人の意思表示が必要です。
払い続けるしかない状態で、何年も過ぎてしまう例があります。
指定代理請求人を決めておく

ひとつめの手続きがこれです。元気なうちに決めておけば、いざというときに家族が代わりに請求できます。保険料もかからないので、入れておかない理由がありません。
本人に代わって請求できる
指定代理請求制度は、こういう仕組みです。
被保険者に特別な事情があるとき、契約者があらかじめ指定した代理人が代わりに請求できます。病気やけがで意思表示ができないときなどが、その事情です。
病名や余命を本人に伝えていない場合も対象になります。
範囲は保険会社ごとに違う
誰を指定できるかにも決まりがあるのです。
ある保険会社の例では、戸籍上の配偶者、直系の血族、同居か生計を一にしている3親等内の親族となっています。会社によって違うので、確認が必要です。
請求するその時点でも、範囲の中にいることが求められます。
特約の保険料はかからない
費用の面でも迷う必要がありません。
指定代理請求特約の保険料は、一般的にかかりません。契約の途中でも、被保険者の同意があれば指定や変更ができます。
受取人の考え方は保険の受取人で困らないためににまとめています。
家族情報登録制度もあわせて

ふたつめは、連絡先を預けておく仕組みです。指定代理請求人とは役割が違うので、両方そろえておくと安心できます。違いを押さえておきましょう。
家族の連絡先を登録しておく
契約者が、家族の連絡先を保険会社に登録しておく制度です。
災害のときや、高齢の契約者に連絡が取れないとき、保険会社から登録された家族に確認が入ります。請求のもれを防ぐことにつながる仕組みです。
登録するときは、その家族から事前に同意をもらう必要があります。
照会や書類の取り寄せができる
登録しておくと、できることが増えるのです。
保険会社によっては、登録された家族が契約内容を照会したり、給付金の請求書類を取り寄せたりできます。何に入っているか分からない、という状態を避けられるわけです。
登録できる家族の範囲も、会社によって異なります。
請求まではできない
ここを誤解すると、肝心なときに困ります。
家族情報登録だけでは、保険金や給付金の請求はできません。請求を任せたいなら、指定代理請求人の指定が別に必要です。
登録したから大丈夫、と思い込まないようにしましょう。
契約者代理特約と成年後見

みっつめは、契約そのものを動かすための備えです。請求だけでなく、解約や住所変更まで任せたいときに関わってきます。あわせて考えておきましょう。
解約や住所変更ができる特約
保険契約者代理特約という仕組みを扱う会社があります。
契約者が手続きの意思表示をできなくなったときに、あらかじめ指定された契約者代理人が住所変更や解約などを行える特約です。請求を扱う指定代理請求人とは役割が分かれています。
扱いのない会社もあるので、問い合わせて確かめてください。
使えないときは成年後見制度
何も決めないまま判断する力が落ちた場合の話です。
その場合は、成年後見制度を使って請求する方法があります。ただし家庭裁判所の手続きが必要で、時間も手間もかかります。
先に決めておけば、ここまで大ごとにせずに済むということです。
本人に通知されない点に注意
便利な制度ですが、知っておきたい留意点があります。
代理人に支払っても、保険会社が被保険者に連絡することはありません。本人が知らないうちに保障が減ったり、契約が終わることがあります。
だからこそ、誰を指定するかは慎重に決めてください。
わからなくなった後に使える照会制度

何も準備がないまま、その時を迎えてしまうこともあります。その場合でも、契約の有無を調べる方法が残っています。生命保険協会が運営する制度です。
条件は死亡か判断能力の低下
誰でもいつでも使えるわけではありません。
親族が亡くなった場合か、認知判断能力が低下した場合に利用できます。後者については、医師の診断書が必要になります。
調べられるのは契約があるかどうかで、金額までは分かりません。
費用と調べられる範囲
具体的な条件を整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 利用料 | 対象者1名につき 申請は6,000円 書面は7,000円 |
| 対象の契約 | 受付日現在で有効に続いている個人保険 |
| さかのぼる期間 | 死亡の場合は死亡日まで最低3年 |
| 対象外 | 解約済 失効済 支払済 財形保険 支払開始後の年金保険 |
すでに解約した契約は出てこないので、過信はできません。
見つかった後は自分で連絡する
照会はあくまで有無の確認までです。
協会は請求の手続きを代行しないので、その先は各社に自分で連絡します。照会制度を使ったことを伝えると話が早くなります。
請求の進め方は保険金・給付金の請求ガイドをご覧ください。
申し込む前に家で探すこと

照会制度にはお金がかかります。協会も、申し込む前に家族で調べるよう案内しています。手元で確かめられることから始めましょう。
証券と通知物を探す
まずは紙の書類からです。
保険証券のほか、毎年届くお知らせや控除証明書も手がかりになります。引き出しや仏壇の周り、金庫の中あたりに入っていることが多いです。
秋から冬にかけて届く控除証明書は、会社名が分かる良い材料です。
通帳の口座振替を見る
書類が見つからないときは、お金の流れをたどります。
通帳の口座振替の履歴に、保険会社の名前が残っています。毎月決まった日に同じ額が引かれていないか見てください。
クレジットカードで払っている場合は、その明細も確認しましょう。
保管場所を共有しておく
そして、これが一番の予防策です。
どこに何をしまっているかを、元気なうちに聞いておきましょう。保険会社名と証券番号を書き出して共有しておくだけでも、ずいぶん違います。
公的な遺族の保障は遺族年金はいくらもらえるで解説しています。
親の保険と認知症のよくある質問

相談の現場でよく聞かれることをまとめました。気になる項目から確認してみてください。
親が嫌がったらどうするか
財産の話だと身構えられがちです。保険金を受け取れずに困るのは家族のほうだと伝えると、話が進みやすくなります。かかるお金の目安は親の介護にかかるお金にまとめました。
指定代理請求人は後から変えられるか
契約の途中でも、被保険者の同意があれば指定や変更ができます。結婚や離婚のあとは、合わせて見直しておきましょう。
兄弟のうち誰を指定すればよいか
親の近くに住んでいて、手続きに動ける人が現実的です。支払いが本人に通知されないので、あとで揉めないよう兄弟にも共有しておきましょう。
認知症でも入れる保険はあるか
診断を受けた後の新規加入は難しくなります。備えるなら、元気なうちに今ある契約を整理しておくほうが現実的です。
請求が断られたときはどうするか
保険会社とは別に、中立で無料の相談窓口があります。進め方は給付金が支払われないときにできることにまとめました。
まとめ

やることを整理しておきましょう。
- 指定代理請求人を決める 保険料はかからない
- 家族情報登録もしておく ただし請求はできない
- 解約まで任せるなら契約者代理特約
- 何もなければ照会制度 6,000円から
- まず証券と通帳の口座振替を探す
- 保管場所を元気なうちに共有しておく
どれも、元気なうちにしかできない手続きです。年末に実家へ帰るときにでも、証券の場所を聞いてみてください。
ついでに自分の契約も見ておくと、同じことを子どもに頼む日の準備になります。

